英単語

自己中な人と利他的な人│selfishとaltruistic

先日、たまたま「日本人のわかってない英語のselfishの意味」というタイトルのブログ記事を見かけました。どんな意味があるんだろうと思いながら記事を読み進めましたが、おかしな主張をしていてびっくりしました。selfishは日本語で「利己的な、自己中心的な」と訳されますが、この記事でブログ主は、selfishは「自己中心的な」ではない、selfishをそういう意味に取るのは日本固有の文化的特性から生じた勘違いだと主張していたのです。

「あいつは自己中だ」「勝手な奴だ」… 日本人は子供の時から、他人をこうして悪く行って来た。確かに良いことではない。これを独語だとEgoist, 英語だと「egotist」と呼ぶ。 己が強い(“He has a big ego”)などとも言うし、自己中心的=self-centeredとも呼ぶ。しかしselfishはどうなるか。これを辞書で引いてもシックリ来ない。日本語には悪い意味での自己中心的な表現はたくさんあるが、良い意味での表現がない。

なので、selfishの一番最適な訳は、「自己中心」ではなくて「自分中心」であり、自分に対して優しい、という意味です。それに対してegotisticあるいはselfcenteredというのは自己中心的であり、自分に対して甘い、という意味。この違い、わかるかな?

ここでブログ主の方は「自己中心」と「自分中心」を区別して、egotistic及びself-centeredが「自己中心」でselfishは「自分中心」という意味だと主張しています。「自分に対して甘い」が自己中心で、「自分に対して優しい」が自分中心だそうですが、「甘い」と「優しい」のちがいもわかりにくいので、他人を犠牲にしても自己利益を追求する人の事を「自己中心」、他人のことは気にせず自分がやりたいことをする人を「自分中心」と定義して四つに類型化すると以下のようになるそうです。

ブログ主の主張によると、自分を大切にできるからこそ、他人を大事にできるのだそうです。

自分を犠牲にして人の為にばかり生きると内側に貸しが残るんです。「これだけやったんだから」というものが残って、見返りを求めるのだと思います。賞賛を得るために頑張ったり、相手に対する要求が無意識の中でエスカレートして、逆恨みしたり、凹んだりもします。本当に人の為になる事をしたいなら、自分自身がハッピーになることです。それが心構えだろうと行動だろうとどっちでもいい。自分を大切にできない人に、犠牲の意味がわかるものか。自分の為に生きる事は他人をおいてきぼりにする事ではありません。自分を大切に出来ない人に、他人を大事にする権利なんてない。

つまり、Dの「自分を大切にしない+他人を大切にする」はありえないということです。しかし、英語にはaltruismという言葉があります。日本語では「利他主義」と訳されますが、Cambridge Advanced Learner’s Dictionaryにはwillingness to do things which benefit other people, even if it results in disadvantage for yourselfという意味だと説明されています。要するに自己が犠牲になっても他人のためになることをすることをaltruismといいます。 自分を犠牲にして他人のためのことをしても見返りを求めない人がaltruistです。ブログ主の「自分を大切にする」は「心構えだろうと行動だろうとどっちでもいい」とのことですが、前者はaltruismと矛盾せず、後者はaltruismと相対立します。他人のために自分に損をするような行動をするのがaltruismですが、altruistはそれが好きでやっているので、相手に見返りを求めたりしません。マザー・テレサが「なぜ、あなたは他人のためにそこまでやれるのか」と尋ねられた時、「他人のためじゃなくて自分のためにしている」と答えたそうです。「他人が幸せになる=自分が幸せな気持ちになる」のであれば、自分の幸せと他人の幸せを区別すること自体が意味をなしません。「自分に優しく出来ない人が、どうやって他人に優しくできるのかね」という問いかけ自体がおかしいことになります。しかし、その行動は第三者には自分を大切にしていないように見えます。誰かのために自分の命を落とすもの、誰かのために自分の職を失うもの…こういった行動も意図としては、本人はやりたいからやるわけです。ただし傍目から見たら自己犠牲と受け取らざるを得ません。 自分を大切にしないと他人も大切にできないというのは「統計的にはそういう傾向はあるかもね」という程度の主張です。自分中心で自分の欲が満たされていてもさらに自己利益ばかり追求する人も数多くいます。ホリエモンやZOZOTOWNの前澤社長がお金を稼ぎすぎて自分の金銭欲を満たされるほど、他人のために生きるよう努力するようになるといったことはほとんど期待できません。

「いや、自分の欲望を満たされた後でないと、他人のことなんて気にも止めれないよ」という人は、政治心理学者はクリステン・モンローのThe Heart of Altruismという本を一読してみることをお勧めします。私はこの本が大好きで五読(「誤読」じゃないですよ)くらいしました。1994年に出版されたこの本で、彼女はナチ時代に自分の命の危険を顧みずにユダヤ人を助けた人たちにインタビューをし、「利他主義の心」が生まれる源泉が何か明らかにしようとします。「利他主義者は生まれながらにして利他主義なのだ」というあまりにも社会科学的ではない結論が出てくるのですが、この本はアメリカ政治学会でthe 1997 Best Book Awardを受賞します。この本に登場する利他主義者は自分のことも、自分の家族のこともまったく大切にしません。自分が死ねばユダヤ人を助けられなくなるから「無謀なことはしない」という意味では自己の利益も考えているのですが、ユダヤ人を自宅にかくまって、ナチスに見つかれば自分や自分の家族も強制収容所に送られるリスクを冒す彼らは「自分を大切にしない」人ばかりです。だからこの「無謀な」行為に巻き込まれた利他主義者の子どもにもインタビューをすると、ほとんどが批判的な口調で話し始めます。「自分の親はわずかしかない食物もユダヤ人に分け与えるから戦時中は本当にひもじい思いをした」。「ユダヤ人を自宅にかくまったために自分も命の危険にさらされた」。利他主義者が自分の子供を大切にしていないというわけではありません。他人の子どもよりも自分の子供の方が大事という「利己主義」的発想をしないので、時には自分の子供が危険になってもそれを受容できるのです。

閑話休題 まったく主題ではないことにスペースを使いました。本題に戻ります。このブログ主の言っていることでもっとおかしいのは、selfishは「自分勝手な」という意味ではなく、ネイティブは良い意味でこの単語が使われているという主張です。

自分の事から自分の身の回りへの管理が行き届いているさまを selfishと呼ぶ場合がある。This weekend, I need to be selfishとは、今週末は自分の事を色々やりたい、という言い方であろう。この場合、日本人はスミマセンを付け加えるが、もしもSorry, I need to…と言ったら欧米人は「What are you sorry for?」と驚くだろう。自分の事が出来るからこそ、つき合う価値があるわけで。自分の事をやる、すなわちselfishであることで相手に悪いことしたと思うのは日本人ぐらいではなかろうか。

実際にそう言われた経験があるのでしょうが、それは週末は自分が好きなように時間を使っていい「自分勝手」な日だからです。日本でも誰かが「悪いけど、週末は、自分勝手にさせてもらうよ」と言えば、「別に何も悪くないよ」と返答が返ってくるでしょう。でも、仕事中にI need to be selfish from nowと言われたら、なんだこいつと思われます。You are selfishと言われて、そうかぼくは周りから自分がある人だと思われているのかと勘違いしてはいけません。You are selfishはYou are unfairの次くらいに強い批判的な言葉です。日本語の「君って自分勝手だね」とほとんど語感が変わりません。 selfishの意味を英英辞典で調べるとこう出てきます。すべてネガティブな意味あいをもつ言葉であると説明されています。
someone who is selfish only thinks of their own advantage (Cambridge Advanced Learner’s Dictionary)
caring only about yourself and not about other people– used to show disapproval (Longman Dictionary of Contemporary English)
devoted to or caring only for oneself; concerned primarily with one’s own interests, benefits, welfare, etc., regardless of others (Dictionary.com)
chiefly concerned with one’s own interest, advantage, etc, esp to the total exclusion of the interests of others (Collins)
concerned excessively or exclusively with oneself: seeking or concentrating on one’s own advantage, pleasure, or well-being without regard for others (Merriam-Webster)
lacking consideration for other people; concerned chiefly with one’s one personal profit or pleasure (Oxford Dictionaries)
concerned chiefly or excessively with oneself, and having little regard for others (The American Heritage Dictionary of the English Language)

selfishiになってはいけません。自分がselfishかもしれないと思う人は、How to Stop Being Selfishでselifishにならない知恵を学びましょう。