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大学受験の英単語帳は何を基準に選ぶべきか?

石川慎一郎教授(神戸大学国際コミュニケーションセンター)著「英語コミュニケーションと語彙─大学入試用単語集の有効性の検証」を読みました。本論文で石川先生は大学受験生が使う英単語集に収録されている英単語が、入試問題に出てくる英単語の頻度に即しているかどうか調べています。1998年に執筆された論文なのでかなり内容が古いですが、それでも英単語集の評価方法に関する議論など役に立ちます。

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目次

入試用単語集に見る重要語選定

石川先生が調べたのは以下の5冊です。

森一郎『試験に出る英単語』(青春出版社, 改訂版初版 1985)
宮川幸久『英単語ターゲット1900 改訂版』(旺文社, 改訂新版1996)
中尾孝司『ラスター・入試頻出英単語の攻略』(駸々堂, 1991)
竹田一他『ジーニアス英単語2500』(大修館書店, 初版 1997)
鈴木陽一『DUO2.0』(アイシービー, 初版 1997)

『ラスター・入試頻出英単語の攻略』と『ジーニアス英単語2500』は多分絶版かと思いますが、『試験に出る英単語』、『英単語ターゲット1900』、『DUO』は今も購入可能です。特に『英単語ターゲット1900』と『DUO』は改訂版が出版され続け、受験生の間でいまだ人気があります。

本論文で著者はNを頭文字とする収録語を調べます。Nを頭文字とする英単語の収録数は以下の通りです(p.3)。

でる単ターゲットラスタージーニアスDUO
収録語数2564514485

『でる単』の収録語数の少なさが目立ちます。『DUO』の3分の1以下です。『でる単』は重要語を厳選しているのが売りですから、収録語数が少ないこと自体は特に問題はないのですが、『DUO』はでる単に出てくる「25語の最重要語に加えて、それに準ずる重要度を持つ60語を収録したと推測するのが自然である」のに、驚くべきことに、25語のうち10語は『DUO』に収録されていません。そこで5冊の中に出てくる118語のNで始まる英単語の出現回数を調べると、

出現回数1回2回3回4回5回
該当語数502218199
占有率42.3%18.6%15.2%16.1%7.6%

という結果が出たそうです(p.3)。「英単語集は一冊しっかりやればよい」とよく言われますが、どの英単語集を使っても出てくる英単語というのはたったの7.6%しかないわけです。逆に他の単語集を使っても出てくる英単語と思って収録語を覚えたら、じつはその4割はたまたまあなたが選んだ英単語集にだけ出てくる英単語というわけです。著者はこの結果について「入試用単語集における語彙選定の基準がきわめて杜撰で恣意的であることを示すものと言うほかない」(p.4)と結論付けます。

入試問題コーパスにおける語彙の出現状況調査

大学受験に合格するために覚えるべき英単語には、(A)その意味を日本語で正確に覚えておくべきものと、(B)大体の意味を把握していれば十分なものがあります。石川氏はAを和訳型、Bを読解型と区別します。

A 和訳型: 下線部和訳問題・下線部語義選択問題→正確な訳語の知識が必要。
B 読解型: 長文読解問題・長文要約問題→正確な語義の知識は要求されない。

そして大学入問題を詳細に調べ、Aについては95の入試問題の中で「和訳及び内容説明を記述式で解答することが要求されている下線部の英文中に含まれる全ての語彙」を収録し、Bについてはセンター試験(B1)と私立大学(B2)の問題の長文読解型問題のうち、出現頻度が2以上の語彙を調べます。B1+B2はBtと表記されます。5つの単語集に関する結果は以下の通りです(p.7)。

でる単ターゲットラスタージーニアスDUO平均
A (35)41413102513.2
B1 (11)145695.0
B2 (12)0334102.8
Bt (20)1688167.8
Ttl (44)51716153217.0

そしてカバー率とヒット率を調べます。カバー率とは、「コーパス別の出現「リスト」語の総数のうち、いくつの語が各単語集に収録されているかを示す割合」、ヒット率は「各単語集の総収録語数に占める、出現した「リスト」語の割合」を指します。カバー率とヒット率を平均した百分率の数値が、各単語集の語彙選定の有効度を示す「総合指数」です。総合指数は以下の通りです。総合指数が高いほど良書ということになります。

 総合指数でる単ターゲットラスタージーニアスDUO平均
A13.731.031.325.750.430.4
B16.621.427.734.146.227.2
B20.014.915.521.247.619.8
Bt4.519.727.929.149.426.1
Ttl15.732.633.934.155.234.3

カバー率の低さ

各英単語集のカバー率については論文で確認してください。注目すべきことはDUO(72.7%)以外の4冊はカバー率が異様に低いことです。今でも受験生に人気のあるターゲット1900もカバー率はたったの38.6%です。とくにでる単は11.4%と著しく低いです。単語収録数を少なくすればカバー率が下がるのは致し方ないところもありますが、石川氏はかなり批判的なコメントを残しています。

単語集の暗記は、短期で完成できるものではなく、入試準備としての英語学習の中で、おそらくは最も多くの時間を必要とするものである。にもかかわらず、それを完了し得たとしても、必要な語彙の半数も身についていないとするならば、こうした単語集を用いた従来の語彙学習に、果たしてどれほどの効果があるのか、我々は、疑問を抱かずにはおれないであろう。(pp.8-9)

ヒット率について

カバー率よりも大事なのがヒット率です。

カバー率を上げるためには、収録語彙の数を限りなく増やしていけばよいわけであるが、それでは、語彙学習の効率は著しく低下する。つまり、単語集の効率性の比較のためには、カバー率に加えて、ヒット率の検討が不可欠なのである。(p.11)

ヒット率においても『DUO』が一番の好成績を収めます。相変わらずひどいのが『でる単』ですが、気になるのは『ターゲット1900』のヒット率の低さです。「同書の場合、書名にもなっている1900という総枠を維持する上で、生きすぎた削除を行ったことが、ヒット率低下の一因になったと推測されるのである。」(p.11)というコメントを石川氏は残しています。そして論文の最後で以下のコメントを残しています。

我々は以上で、実際の入試問題コーパスに対する入試用単語集の効果を数量的に調査してきたわけであるが、その結果は、必ずしも満足のいくものではなかった。単語集は、今や、英語学習に欠くことのできない副教材として、多くの高校生や受験生の間に普及するに至っている。我々は、こうした入試用単語集の英語教育全般に対する影響力を意識しながら、その内容について、さらに検討と批判を加えていく必要があるであろう。(p.14)

感想

好論文ですので皆さんも一読することをお勧めします。『試験に出る英単語』のひどさが目立ちますが、たしか著者の森一郎氏は収録語の選定について、入試問題に出てくる可能性が小さいものでも文脈から意味の推測が困難なので覚えておくべき英単語を厳選している、と述べていたかと思います(うろ覚えですので間違っているかもしれません)。そうなると、でる単のカバー率とヒット率が低くなるのは当然のことと言えます。市販されている入試用英単語集のカバー率の低さは収録英単語数を増やさば簡単に解決できる問題です。収録語数を増やすと必然的にヒット率も下がりますがそれは致し方ないことです。既存の英単語集の収録語数が少ない一番の理由は、手軽に持ち運びできるくらいのコンパクトなサイズでないと英単語集が売れないという実情があるからです。収録語数を増やして必修語は必ず載せようとすると最低3,500語以上の英単語を収録せざるを得なくなりますが、そうなると英単語本をもっと大きめにする必要があります。しかし、それでは売れなくなります。ということで、出版社は執筆者に対して収録英単語数を減らすよう要求します。カバー率の低い英単語集が売れ続けるという残念な結果は今後も続きそうです。

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